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深呼吸しよう

慌ただしい現代生活の中に深呼吸できるすきまを与えてくれるようなカルチャーを紹介するブログと思いきやただの備忘録

春の雨、修羅、アルペジオと花びら

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雨の夜に聴きたい音楽を。

四月の気層のひかりの底を
つばきし はぎしりゆききする
おれはひとりの修羅なのだ*1
 
宮沢賢治の詩『春と修羅 (mental sketch modified)』は諳んじている、というのは言い過ぎだけれど何かにつけて思い出すくらいには覚えている。東京の冬は乾燥していてあまり雨が降るイメージがないけれど、春が近づくにつれ、静かで醒めた雨の夜が増えてくる。このまま湿度は増し続け、やがて夏が来るのだろうな、と思う。そういう狂熱から一歩引いた空洞のなかに春の雨はあって、冬と夏のあいだを埋めるようにつめたい雨が降り、雨が街を打つ音しか聞こえない。そんな時に『春と修羅』を思い出す。
うららかで全てが芽吹く祝福の春に馴染めないな、ひかりは暖かいのに。そのことはひどく私を戸惑わせ、混乱させる。けれど春の雨の夜はつめたく、そんな夜には取り残された自分を取り戻す。
 

 *

こんな夜にはどんな音楽を聴いたらいいだろう。静かで、雨音に同調するような、柔らかいアルペジオの音がいい。

スティーブン・ウィルキンソン、通称BIBIO(ビビオ)はイングランド出身のアーティストで、2004年にデビュー。以降、多数のリミックスワークも含め、コンスタントに作品を発表し、最近では名門レーベルWarpからリリースしているので、日本でもファンが多いミュージシャンだと思う。

Petalsという曲が収録されたアルバム"A Mineral Love"は、雨が降る深い夜から、空が白んで、夜が明ける頃に雲の切れ間からひかりが差し込むような、美しいアルバムなので、通して聴くのが一番いい。

 *

Petalsの意味は《花びら》。散った桜の花びらが、雨に打たれ、アスファルトにはりつき、往来で朽ちていく。気づけば辺りは新緑に青く、またいちだんと夏が近づいている。立ち止まっていても新しい季節はおとずれて、あたりはいよいよ眩しく、火花のような明るさに目が痛む。

あたらしくそらに息つけば
ほの白く肺はちぢまり
(このからだそらのみぢんにちらばれ)
いてふのこずゑまたひかり
ZYPRESSEN いよいよ黒く
雲の火ばなは降りそそぐ
宮沢賢治春と修羅 (mental sketch modified)』
 

燃えるような季節を纏うために雨は降るし、花びらは朽ちていく。何度でも芽吹いて、生まれ変わりながら、ひかりの底をゆききする。何もない絶望と、何かある希望のあいだを、探しながら彷徨って。
 
 

*1:宮沢賢治春と修羅 (mental sketch modified)』